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久女

久しい女と書いて「ひさめ」。
本日、久々にひさめさんに会いました。
うれしかったです。

ぼくがはじめて久女さんに会ったのは、平成14年2月。
久女さんは明治41年生まれです。
ケアマネさんから紹介いただきました。

当時久女さんは独居でした。
「ヘルパーさんに、私がいろいろ教えてますねん」という気丈な方でした。
「忙しい忙しい」っていうのが口癖で、ずっと働いておられました。
ぼくが訪問しても、ご自分の作品を見せて下さったり、いろいろなお話しを聞かせて下さいました。
特に海外旅行の思い出が彼女にとってはかけがえのないものらしく、ヨーロッパに行ってきた話をいっぱいしてくれたのを思い出します。
すごく鮮明に記憶していらしたことに驚きました。

そんな久女さんも、知らないうちに施設に入られていて、今朝姪の方からその施設に歯の治療に行ってもらえないだろうかというお電話を頂戴しました。





久女さんが入られている施設には定期的に訪問されている先生がおられて、その先生に診てもらったけど今ひとつうまくいっていないとのこと。
その先生と一悶着あったんですが、何とかすぐに会いに行くことになりました。

久女さんとぼくの仲は、普通じゃないです。(ちょっと大袈裟です)
久女さんとの3年前のエピソードを書き記したものがあるので載せることにします。

十訓
強ク正シクニコヤカニ
上見テ進メ下見テ暮セ
真剣ノ前ニ不能ナシ
論デ負ケテモ行ヒデ勝テ
長所ト交ワレハ悪友ナシ
話上手ヨリ聞上手
己ニ克ツテ人ニ譲レ
急グナ休ムナ怠ルナ
向上ノ一路ニ終点ナシ
仲ヨク働ケ笑ツテ暮セ
        久女

訪問診療で訪れた94歳一人暮らしの老女の家で額に飾られていた「十訓」。明治の人は何というか、バイタリティーを感じる。もちろん明治生まれで今健在というだけで九十歳以上だから、平均以上の健康体であり、それだけで元気な証拠ではある。でも、楽しく充実した生き方を知っているという気がする。だからそういう人たちの話を聞ける機会があることを幸運だと思う。老人から学ぶことは多い。

久女(ひさめ)さんは抜群の記憶力で、94歳とは思えない。耳が遠いとか目が見えにくいとか、歯が悪いとか、腰が痛いとか、そういうのはあるけれど、部屋はきちんと整理整頓され、自作の掛け軸や刺繍が飾られている。話し出すと笑顔を絶やさず、話題も尽きない。

先日新しく作った義歯(入れ歯)の具合が落ち着き、治療終了となった。最後の日の別れ際久女さんの眼に涙が溢れていた。何だかじーんときた。

ところが一週間後、また呼び出された。役所から届いた書類があって、どうすればいいかわからないという理由だ。ぼくたちには関係ないことはわかっていたが、直接会って説明した方がいいと思って出向いた。すると書類の話が終わっておもむろに便箋とペンを差し出して、「感想を書いてもらいます」

予想外だったのでちょっと困ったけれど、簡単に久女さんに会えてよかったと思うという内容を書いて渡した。「思い出になりますから」という。

お返しにぼくも書いて欲しいと要求すると、「目が見えないから書けません」だと。かわいらしいおばあさんである。


以上が3年ほど前にぼくが書いたものです。

「十訓」をはじめて見たとき、はぁーと思ったことを思い出す。
久女さんもぼくのことをしっかり覚えて下さっていて、ぼくを呼び出して下さった。
うれしい限りです。

治療が終わって、「気をつけて帰って下さい」と淡々と言ってくれ、別れ際に手を振る久女さんの姿が、脳裏に焼き付きました。

ここのところ、「久しぶり」が多い。

ぼくは過去に固執するべきではなく、未来に向かって前向きに進んでいきたいと思っています。
でも「懐かしい」と過去を振り返ることも必要だと思います。
過去への固執と懐かしむことは違うと思います。
今のぼくがここにあるのはすべて過去のおかげです。

懐かしいと思うことで、明日への活力になれば、いいと思います。

久しい女の人に会えて、ほんとよかったです。
懐かしくって、ちょっとドキドキしました。

by omori-sh | 2005-09-24 23:30 | episode