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虫食いスキーム

通勤電車の中で読みはじめた本、「健全な肉体に狂気は宿る/内田樹・春日武彦」が、おもしろい。

まだ読み始めたばかりなんだけど、痛快な対談で、ひきつけられる。
大半が内田氏のセリフだけど。内田さん、マシンガンのように言葉が出るタイプのようだ。

ぼくは仕事柄、いろいろな人と接する。
悩みを抱えた老若男女に対し、直接体に触れる接し方だ。
だから、たいへんに緊張の高まる場面というのがある。

その際たる場面が精神の不安定な方と接するときだ。

患者さんにとって歯の治療というのは非常にストレスのかかるものであることは容易に想像できるが、われわれ歯科医にとっても非常にストレスのかかる患者さんが存在することも理解してもらえるのではないだろうか。

そういうとき、自分が落ち着いて振る舞うためにどうすべきか。
患者さんの気が楽になるようにするにはどうすればいいのか。

人の心理を勉強する必要があると思う。
だから、心理学とか精神医学という分野をわかりやすく説いてくださる先生の本が参考になる。

昨今は、ココロが疲れている人が多くて、その類の書籍は本屋に行けば山ほど並んでいる。
精神科医の先生が書かれた本に、何となく目がいく。

春日先生は精神科医としてはきっと異色なんだろう。
でも、ぼくは好きだなあ。カッコイイと思う。どういうふうに、といわれてもよくわからないけれど。

歯科医療という仕事をしていく上で勉強になるかな、なんていうのはいつのまにかどうでもいいことになっていて、ただわけがわからないんだけど、とにかくおもしろいなあ、と思いながら読んでいる。

第一章、いきなりおもしろいなあと思ったところ。


内田 教え子たちの悩みを聞いて感じた印象でも、母子関係が問題ですね。どうも、母親のコミュニケーション能力が低くなっているみたいです。
 母親の側に、「子どもにこうなってもらいたい」というかなり明確なイメージがあって、そのイメージとなじまないような子どもからのシグナルには反応しない。自分が聞きたくないメッセージを子どもが発しても、母親は耳を塞いでしまう。これは一種の精神的虐待だと思うんですけど、母親も子どももそれを虐待だとは認識していない。
-中略-
 そういう経験をしてきたらしい学生たちと話をしていると、話の途中で、何かがすっぽりと抜け落ちていることに気がつくということがあるんです。ぼくがしゃべっていることのうちで、どうやら「聞いている部分」と「聞かない部分」がある。
 ちゃんとうなずきながら話を聞いているように見えても、ある瞬間から、ぷつんと回路がオフになって、もう何も聞いていない。だから、ぼくから送られるメッセージはまるで「虫食い算」みたいにあちこち穴だらけなんです。それが「虫食い」状態になっていることに、本人は気がついていない。
 ぼくはこれを「虫食いスキーム」と呼んでいるんですけれど、この「穴だらけの世界」彼女たちにとってはたぶん自然な世界の見え方なんです。

-中略-

春日 そうですね。まあ、わからないところが出てきたらとりあえず飛ばしちゃえ、というのは、一つのやり方ではあるんですよね。ですから、方法論としてはそういうやり方もあり得るけれど、ただ普通はやっぱり気色悪いからやらないわけでしょう。それを平然とやってしまうというのは、わたしのところに来る患者さんにも見られる一つの特徴であって、精神科的に言えば、一種の解離症状で乗り切ってしまう、ということに近いんじゃないかと思います。
-中略-
 まあ、これも一つのうまいやり方であって、それなりの生活の知恵なんでしょうね。


「わかりません」とか「記憶にありません」でOKになってしまうってこと、これはよくあるじゃないか!

わからないところはとりあえず無視、飛ばしてしまえ、ってよくやってるんだよなあ。

「虫食いスキーム」は一種の解離症状で処世術でもあるとか、妙に納得してしまうのだった。

まあそんな「おもしろい」がこの本には満載なのである。

by omori-sh | 2005-12-07 14:57 | book