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ねぎらう

せっかく建物を建ててもらったんだから、いい施主でありたいと思っていた。
施主って、一生のうちでも一度あるかないかのことだ。
たぶんぼくの人生ではこれきりだと思う。

施主として職人さんと接する期間ももうおしまい。
完成はうれしいことだけれども、何だかちょっと寂しい。
寂しいって思えるということは、いい職人さんにお世話になったからだ。

そんな職人さん、特に最初から最後までずっと現場にいてくれた大工さんたちへ、感謝のしるしとして食事に招待した。
建前は労をねぎらうということだけれども、これはやっぱりぼく自身が施主として納得するためだったかもしれない。
先日現場で「施主さんに喜んでもらえることが一番うれしい」と棟梁が語ってくれたのがうれしくて、もう一度ゆっくり話をしてみたいと思った。

「大工仲間にも自慢できる建物」
「プロが見たら難しさがわかる建物」
「自分たちにとって記念になる建物」
どれも施主としてもうれしい表現だ。

棟上げの日が大工さんにとって一番の見せ場であり、大舞台であるということは以前から聞いていた。
それだけに棟上げ前がもっとも悩み、不安になり、苦労するという。
今回の建物はとくにややこしい設計で、複雑なかたちだったので、経験豊富な棟梁でもかなり不安だったらしい。

「建ってしまえば、あとはうまくいくんです。とにかく建つ前が難しいです」
上棟前に、さんざん3人で話し合ったらしい。
ぼくはしょっちゅう現場に足を運んだけれど、大工さんがお互い声を掛け合っている姿はほとんど見なかった。
これが不思議でならなかった。
3人で仕事をしているのに、3人ともほとんど会話を交わさず黙々と仕事をしている姿ばかり。
話し合いは建つ前にすでに済んでいたということのようだった。

上棟後の仕事では互いに指示を確認しなくとも、それぞれがすべき仕事がわかっていて、いちいち口に出さなくても仕事が進むらしい。
そういうことがさも当たり前という感じで話しておられたのでまたびっくり。
かっこいいなあと思った。

プロだ。

言われてできるというのは一人前ではないということ。
言われなくてもできて一人前。

3人といっても棟梁と一番の若い方では親子の年の差である。
53歳と24歳。
それでも信頼しあって仕事ができるってすばらしい。

3人のチームワークがあってこその建物であることがよくわかった。
もちろんその中で棟梁のTさんが墨つけをしたからうまくいったという声があって、その分だけTさんにとって思い出深い建物になったんだろうなあって想像している。
この4ヶ月、充実した仕事の期間であったなら、ぼくも施主冥利に尽きる。

「またこんなややこしい仕事がきたらどうします?」
「しばらく休みたいなあ」
と笑うTさんの笑顔が印象的だった。

Tさん、Nさん、Mさん、そして若社長のYさん、ほんとうにありがとうございました。
心から感謝しています。

by omori-sh | 2007-01-22 23:35 | create d.c.