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父と息子って 8

「親父のやることって、みんな同じなのかな」
「親父いうて、なにおまえ偉そうなこと…」チュウさんは言いかけた途中で笑った。
「まあそうじゃの。カズも親父なんじゃのう」
「同い歳だよ、チュウさんと」
「ほいでも、わし、カズがえらいガキのように見えるがのう」
「チュウさんのほうが老けてるんだよ」
時代や世代のせいなのかどうかわからない。ただ、ショッピングセンターで記念写真を撮ったとき、ぼくたちを兄弟だと勘違いした係員は、チュウさんのほうが兄貴だと疑いなく思い込んでいた。それでいいんだよな、と思う。
「親父には告知してないんだ、病気がガンだっていうことを。チュウさんなら、ちゃんと知りたかった?」
チュウさんは黙っていた。僕は「ごめん」と言った。答えがどっちでも、そう言おうと決めていたのだった。
「謝らんでええ。子どもは親に言うてもええし、言わんでもええんよ、子どもの楽なほうにすれば、親はのう、それがいちばんなんよ」
「…そうなのかな」
「ほいでも、逆なら言うたらいけん。子どもの先のことを、親が言うてしもうたらいけん。子どもが先のことを信じとるときは、親は黙って見といてやるしかなかろ?」


「流星ワゴン/重松清」より

ぼくはあんまり歳より若く見られない。だいたいここ5年くらいは3~5歳くらい年上に見られることが多い。主に仕事中だけど。
ぼくは自分の父親が職場でどんなふうだったか、ほとんど知らない。
それでも、老けて見える今のぼくと、同じ歳の父が並ぶと、きっと父のほうが兄に見えたんだろうなあ。

その理由は、たぶん服装だ。

ひょっとしたら、30年前の父と同じ服装をぼくがしていて、同じ髪型だったら、似たようなモンじゃないか、という気がしている。
これはあくまでも想像だけど。

子どもの頃見上げていた父の年齢に自分がなってきて、ようやく父のことが少しわかってきたから、そんなふうに思うんだろう、きっと。

格好だけは、確実にぼくのほうが若いのだ。そして、気持ちは、たぶん父もぼくと同じくらい若かったはずだ。

by omori-sh | 2005-08-09 07:51 | book