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棟梁

夕方、現場を通りがかったとき、屋外で外壁に張る木材を刻んでいた棟梁を見かけた。
大工さんの仕事はほんとにもう大詰めで、残すところあとわずか。
これまで挨拶はずっとしてきたけれども、棟梁とゆっくり話すことはなかった。

仕事中に話しかけるのには抵抗があった。
ただでさえたいへんな仕事なのに、手を止めさせるのは申し訳ないなあと思っていた。
でも、棟梁には心から感謝しているので今日はしばらく仕事をされている姿を眺めてから声をかけてみた。

「たいへんだったでしょう」
「たいへんでしたけど、ぼくもこんな仕事はしたことがないので記念になります」
「そう言っていただけるとすごくうれしいです」
「それでもやっぱり喜んでくれているのが一番です」

以前現場監督のsmmr社長も「クライエントに喜んでもらえていることが職人さんにとって何よりだし次につながる」と話しておられた。
彼らにとってのお客であるぼくらは確かにものすごく喜んでいる。
できあがっていく建物はもちろん、仕事をされている姿、姿勢を見ていると感動しっぱなしだった。

「この道はたまに通るので、通るたびに『自分がつくった建物だ』と思えるやろし、人にも自慢できますよ」

棟梁にそんなセリフをいただくと、目頭が熱くなった。
そして何となく棟梁の目も少し赤くなっているように思えた。
いい人につくってもらえたなあ、お願いしてよかったなあって、心から思う。

設計してくれたtutiさん、工務店のsmmrさん、そして棟梁のtrさん。
つくり手のみなさんがこの仕事をやったことを「苦労はしたけれどもやってよかった、おもしろかった」という思いを抱いてくれていることをすごく感じる。
ぼくらでは計り知れない苦労や喜びがあったに違いない。

昨日お昼休みにほかの若手大工さんと少し話すことができた。
24歳の彼は大工になって7年目。
食べていたお弁当は8割がご飯。

独身でお弁当は自分でつくって来たと言う。
その彼にも今回の仕事について聞いてみたらやっぱりたいへんだったらしい。
それでももう一回くらいならこんな仕事をやってみたいと。
そして、「自分が墨つけをしていたらたぶんこの建物は建っていなかったと思います」と話してくれた。

そんな難しい仕事だったんだ。
棟梁のtrさんだから出来た建物。
そしてその棟梁が「最初から最後まで息が抜けなかった」という仕事。

「ぼくもね、やっぱりなかなかうまくいかないことがあって不安になることもあったんですけど、ここに来たら、この建物なら何とかなるだろう、って思えたんですよ」
そんな話をしていたら、棟梁も手を止めて、ぼくの方を向いて笑顔を見せてくれた。
「こんな仕事、したことないからほんと記念になります」

なんだかすごく心が熱くなった。
うれしかった。
今日もすごくいい一日だったなあって、心から思えた。

そういえば失礼なことに、棟梁のお名前をきちんと伺っていなかった。
だから端材を渡してお名前を書いてもらった。
「珍しい名字でしょう、徳之島なんです」

壁に張られている木材の端材に鉛筆で書かれた棟梁のサイン。
大事にとっておくことにしよう。
記念すべき自筆サインをいただいた。

思い出に残る一コマとなった。

by omori-sh | 2007-01-12 18:37 | create d.c.