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おっさん

電話で予約が入った方が玄関ドアから入ってこられた。
30代男性。

ぼくの診療所ではまず問診を歯科助手に担当してもらっている。
カウンセリングコーナーで初診の面接(簡単な問診だけど)。

ひとまず待合室に戻っていただく。
そしてぼくは問診内容を伝えてもらう。
でも、その方の場合、問診票に書かれてあるSという名前を見たとき「あっ」と思って問診内容は半ば聞き流してしまった。

「中学の同級生や」
「そうなんですか?」

ぼくの歯科医院では初診時に口腔内写真を見た目がわかる程度に撮らせてもらっている。
それもスタッフに任せている。

「聞いてみたけど『知らない』とおっしゃってましたよ」

そうやんなあ、20年以上前の記憶やもんなあ、忘れているのも無理はない。

外見についてはぼくもだけれど、彼もずいぶん変わっている。
名前を知らなければぼくだってわからなかったかもしれない。
でも、間違いない、中学3年のときわりと仲の良かった彼だ。

レントゲン写真の説明をして、治療予定を話し、治療をはじめようとして、もう聞かずにおれなくなった。

「中学一緒でしたよね」

「・・・ いま思い出した!」

ぼくは治療をしながら、そして彼は治療を受けながら頭の中ではあの頃の記憶を辿っていたんだろう。
あれからそれぞれが22年生きて、22年分の変化をした。

華奢で色白でかわいらしいタイプだったはずの彼はたくましく日焼けしたおじさんになっていた。

「ushiって覚えてる?」
「うん」
「あいつ、いま小学校の先生やで、しかもT東小学校」
「おしー、オレいまT台に住んでて小学生の子どもおる」
「笑えるなあ」
「ほんまやなあ」

ぼくはSくんにオフコースを教えてもらった。
中学3年で転校してきたSくんはそれまでのぼくの友だちにはいないタイプで新鮮だった。
知らないことをいろいろ教えてもらったと思う。

Sくんには高校生と小学生と2歳の子どもさんがいるようだ。
そのうち奥さんと子どもさんにも会えるかもしれない。
何だかとても楽しみだ。

今日の治療が終わったとき、中学の頃を回想していたであろう彼が言った。

「おっさんになったなあ」

「お互いさまやな」

中学の頃の姿からいきなり今の姿になったら、そりゃ驚くわな。

by omori-sh | 2007-06-28 18:20 | episode